自己を厳しく見つめ、いのちとは何か、人生とは何かを鋭く問いかけた洋画家鴨居玲が、昭和60年(1985)9月、57歳で突如としてこの世を去って15年になります。
生のリアリティ、いのちの明かりを描き出した鴨居の作品は、畏れと希望とが混在し、今も視る者を魅了してやみ ません。
鴨居玲は金沢で生まれ育ち、創設まもない金沢美術工芸専門学校(現金沢美術工芸大学)に入学、そこで宮本三郎 に師事、早くから才能を認められました。卒業後は母と姉羊子の住む兵庫に移り、宮本たちの創設した二紀会を中心
に作品を発表。若くして同人に推挙されますが、まもなく制作への自信の喪失から南米へ旅立つのでした。
その間抱き苦しみ抜いた『自己表現への探求』は、帰国後の44年(1969)、真価が認められて、昭和会展優秀賞、安 井賞受賞となり、一躍脚光を浴びます。しかし、飽きたらぬ思いは、スペインのバルデペーニャスに新天地を求めさせ、村人達との交わりの中から「酔っぱらい」「廃兵」「おばあさん」という生涯のテーマをつかみ、代表作を生むことになるのでした。
これらの醜怪ともいえる姿の中に、人間の生を肯定するディオニソス的な「ちから」を見出し、逆説的な表現を通 じて「いのちの明かり」を描き出そうとしたのが、鴨居玲の芸術であったといえましょう。
没後15年、改めて、鴨居玲の生の軌跡となる、油彩画、水彩、素描など代表作130点余りを一堂に会することとな りました。この希有な画家が残した真摯な問いかけをぜひともご覧いただきたいと思います。