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学芸員コラムColumn

2020年3月11日展覧会#57 永楽和全と加賀の縁

二代酢屋久平《金襴手雲龍図鉢》当館蔵

永楽和全《色絵金襴手龍文大皿》東京国立博物館蔵 Image: TNM Image Archives

 第5展示室で開催中の特集「古に倣う 写しの魅力」では、当館コレクションのなかから、過去に作られたものに敬意を表し、その表現や精神に倣った制作する、写しの作品を多くご紹介しています。今回のコラムでは、本展示の開幕後に気が付いて、展示することのできなかった写し作品をご紹介します。
 当館所蔵の二代酢屋久平《金襴手雲龍図鉢》は明治31年の購入記録が残る作品ですが、その図様は東京国立博物館所蔵の永楽和全《色絵金襴手龍文大皿》と酷似しています。
 和全作品の裏面、高台内には「慶應元年丑霜月/雙岳翁因需古赤/繪金襴之摸珎器/於九谷永楽造之」(※/は改行を示す)という銘が記されています。ここから、この作品は永楽和全が慶應元年11月に九谷において、古赤絵金襴の珍器を写して作られたこと、そしてそれが雙岳翁こと大聖寺藩士・東方真平の依頼であったことがわかります。東方は、藩主に九谷焼を含む特産品の生産を奨励し、他国へ売却することを進言した人物としても知られており、和全の加賀招聘に関わったとみられています。すなわちこの作品は、九谷焼の発展に大きな貢献をした永楽和全と九谷との縁を示す作品であるといえます。
 では当館所蔵の酢屋作品と和全作品とはどのような関係なのでしょうか。両者を比べると、一見よく似ているのですが細かい部分で違いがみられます。特に見込み中央の龍の頭部は、酢屋作品が正面を向いているのに対して、和全作品は横向きです。また概して和全の方が、模様が自然で細部の仕上げが丁寧です。寸法はというと、酢屋作品は口径37.0、底径20.7、高さ12.4cmで、和全作品は口径39.7、底径19.0、高さ9.0cmとなっており、近いもののわずかに異なっています。こうした違いから、酢屋作品は、和全作品を直接写したり、正確な図案に基づいて写されたものではなく、簡単な手控えをもとに作られたものではないかと推測されます。
 いずれにせよ酢屋作品は、明治初期の九谷に大きな足跡を残した和全の記憶が、明治31年でも受け継がれていたことを示す重要な作品であるといえるでしょう。(学芸主任 中澤菜見子)

参考文献
展覧会図録:『江沼九谷 色絵の系譜』加賀市美術館、1986年

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