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学芸員コラムColumn

2019年8月1日その他【美術館小史・余話16】文化財所在綜合調査の実施(2)

※本コラムは平成12年から平成16年にかけて、当館館長・嶋崎丞が「石川県立美術館だより」において連載したものの再録です。

 綜合調査の実施は、まず能登地域から始めようということになった。能登は、地域の文化や歴史と密接に関係した文化財が、古い形そのままで伝世している場合が多いと判断したからである。
 能登の調査については、古文書や民俗資料、石造文化財や考古資料などを中心とした九学会連合調査や、土居次義氏の長谷川等伯(信春)の調査がある位で、美術工芸全般にわたっての調査は、未だ実施されていなかった。
 そうした意味で、美術館の調査は、期待を持って迎え入れられたのではなかろうかと思っている。
 調査の対象となったのは、いうまでもなく寺社、それに十村(とむら)を中心とした旧家であり、そこに伝世する美術工芸品であった。今日能登地域には各市町村指定の文化財が所在しているが、それらの文化財のリストを見てみると、私共の調査によって拾いあげられたものが相当数あり、この調査の果たした役割を、十分に見ることができるのではなかろうか。
 調査は昭和41年8月上旬の最も暑い時期に実施されたが、その当時、能登の道路はあまり舗装がされておらず、しかも自動車に冷房が無かったため、窓を開け砂埃をたてて走り回る。おかげで1日の調査が終了する頃は埃まみれであった。
 門前町では宿舎が総持寺だったが、こうした調査の連続であったためか、翌朝目が覚めたら何と朝の8時。朝のお勤めはもちろん、当日の他の宿泊者全員も朝食が終わっていた。
 宿泊させていただいたのは奥の書院であったが、
 「奥の書院で宿泊し、このような朝寝をしたお客は、総持寺始まって以来初めてである。」と雲水に諭され、大いに恥をかいた次第である。

  (嶋崎丞当館館長、「石川県立美術館だより」第217号、平成13年11月1日発行)

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