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学芸員コラムColumn

2019年6月23日その他【美術館小史・余話14】社寺文化財の寄託第一号

重要文化財 大乗寺仏殿

 ※本コラムは平成12年から平成16年にかけて、当館館長・嶋崎丞が「石川県立美術館だより」において連載したものの再録です。

 先号(13 )で述べたように、美術館へ美術品を寄託するということは、言うは易しで実現はなかなか困難であったが、故山川庄太郎氏のコレクションの寄託が一つの切っ掛けとなって、明るい兆しが見えてきた。
 現在一括寄託を受けている大乗寺の文化財がそれである。
 今は亡き日本画家で郷土史家でもあった山科杏亭さんが、昭和38年12月の中頃に美術館へやってこられ、「大乗寺の文化財の保存管理がうまくいっていないので、美術館で預かってはどうか?」という申し入れを受けたのである。
 大乗寺の文化財については、重要文化財が4件(その後1件追加され現在5件)含まれた曹洞宗門の貴重な一大コレクションであり、果たして美術館へ移すことが妥当であるかどうかが、正直云って多少気になったのである。そこでとりあえず、年が明けて1月に入ってから現状を視察しようという ことになった。
 確か1月10日頃であったと思う。その頃の大乗寺は、今のように整備が全くされておらず、松本龍潭老師が唯一人寺を守っておられた。
 正月三が日を過ぎて降り積もった雪をかき分けるようにしてお訪ねすると、老師は障子を開けて
 「あの宝蔵を見て下さい。」と云われた。
 土蔵の土壁は剥がれ落ち、入り口の扉の立て付けも悪く、鍵も十分でなかった。老師が自分の代で何かあってはと決断された思いが十分に伝わってきた。
 それから移管のための収蔵品の調査、簡単な目録の作成等を行って、文化財一括を美術館の収蔵庫へ移したのである。
 県と大乗寺との正式契約が結ばれたのは、昭和40年6月1日のことであった。
 このことにより、その後多くの寺社から文化財の寄託を受けることになった。
(嶋崎丞当館館長、「石川県立美術館だより」第215号、平成13年9月1日発行)

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