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学芸員コラムColumn

2018年10月31日その他【美術館小史・余話8】県民の期待

昭和30年代の旧館展示室(現石川県立伝統産業工芸館)

 ※本コラムは平成12年から平成16年にかけて、当館館長・嶋崎丞が「石川県立美術館だより」において連載したものの再録です。

 旧石川県美術館1階の展示室を、企画展示室として運用することになった経緯については、先号で述べた通りである。
 そこで企画展を次々に実施しなければならなくなったので、どのようなテーマを取り上げるかが大きな課題となった。
 石川県が設立した美術館として、最も相応しいのは、加賀藩時代に培われた美術工芸の各ジャンルを、順を追って開催すればよいのではないかということになったが、今考えてみれば、開館してからこのようなことを話し合うとは、随分とのんびりした時代であった。
 そうした理由で、昭和30年代には、加賀藩ゆかりの美術工芸展が数多く開催されている。
 そのような展覧会を開催して痛切に感じたことは、多くの県民の方々が、新設された美術館に対して大変な関心を寄せておられたということである。中にはわざわざ事務室まで訪ねて来られ、「あの作品は良いが、この作品は出品すべきでない。」と、堂々と私共の企画に対してアドバイス(?)される方も現れ、大いに議論を闘わすことも間々あり、一体全体今後どうなっていくか、不安に駆られたことも多くあった。
 これらは今思えば、県民の美術館に対する熱き思いからの行動であり、このことによって今日の美術館が育って来たということが出来るのではなかろうかと思っている。
(嶋崎丞当館館長、「石川県立美術館だより」第208号、平成13年3月1日発行)

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