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学芸員コラムColumn

2017年8月14日展覧会#30 国宝《万葉集(金沢万葉)》に寄せて

国宝《万葉集(金沢万葉)》前田育徳会蔵

 大名家による文学作品の古写本収集は、自家の財力や教養を表明する有効な手段だったと考えることができます。そこで次の段階として最も古く、美しく、正統的な写本が求められたことは言うまでもありません。加賀藩主・前田家による文学作品の収集にもこうした方針が反映されているようです。
 しかし『万葉集』には特別の意義があったと思われます。なぜなら日本最古の歌集である『万葉集』は、和歌のみならず『源氏物語』をはじめ日本文学全般に大きな影響を与えているうえに、歴史の生きた証言でもあるからです。したがって日本の文学や歴史に関する書物を体系的に収集する原点は『万葉集』にあると言うこともできるでしょう。そして統治者の視点からは、『万葉集』が天皇や官吏のみならず一般民衆の歌も収めていることが、仏教の根幹である「諸法実相」の洞察に立脚した、儒教的な仁政を施す指針として重視されたのではないでしょうか。
 今回、前田育徳会尊經閣文庫分館で展示されている国宝《万葉集(金沢万葉)》は、加賀藩主・前田家に伝来したことから、「金沢万葉」と呼ばれています。筆者については、長く平安時代末の歌人・源俊頼(1055~1129)とされていましたが、現在は筆跡の比較から能書家として知られた藤原(世尊寺)定信(1088~没年不詳)と考えられています。前田家が本書を入手した時期は明確ではありませんが、三代藩主・利常の時代とされています。(学芸第一課担当課長 村瀬博春)

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