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学芸員コラムColumn

2017年3月29日展覧会#024 《黒楽茶碗 銘北野》初代長次郎作

 作品を展示していると、その魂魄を感じる瞬間があります。現在「茶道美術名品選Ⅰ」で展示中の《黒楽茶碗 銘北野》もまさにそうした作品で、「名物前田藤四郎」に匹敵する秘めた威風凛然を感じます。「北野」との銘が付けられた本碗には、表千家四代の江岑宗左(こうしんそうさ)による箱書きと添え状があり、そこからかつて利休の判があったが現在は消えていることと、江岑の時代の所有者は北野天満宮の松梅院に隣接する興善院だったことがわかります。やがて「北野」は興善院から塗師の中村宗哲家の所持するところとなり、千家茶道中興の祖とされる表千家七代の如心斎がそれを買い取り、江戸の豪商・冬木家が利休の遺偈(ゆいげ)を千家に戻した際に、その返礼として利休の古田織部宛消息とともに冬木家に贈られました。その後、大名茶人として名高い松江藩主・松平不昧が所蔵し、「大名物」に格付けられました。
 初代長次郎による黒楽茶碗は、利休の佗茶の精神を具現したものと理解されています。しかし豊臣秀吉はこの茶碗を嫌っており、利休もそのことを認識していたことは、秀吉に厚遇され、千利休とも親交があった茶人・神谷宗湛による『宗湛日記』から知ることができます。「北野」の銘の由来には明確ではない点がありますが、如心斎は本碗が美に殉じた利休の精神を象徴するものと考えていたのではないでしょうか。それゆえに「北野」には天神縁起をも含意する玄妙な響きがあり、最初に述べた「秘めた威風凛然」も、静に「鋭利休歇」としての利休の生き様を語りかけているようです。(村瀬博春)

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