今月の美術館だより
 第238号 平成15年8月1日発行


●美術館小史・余話 36 
嶋崎 丞(すすむ) 当館館長

新美術館開設に向けて(1)

  旧館開館20周年記念「国宝源氏物語展」を無事盛大に終えて、次に急いで取り組むべき仕事は、新館開設に向けての準備であった。

 私共美術館職員は、新館が開設されれば当然吸収合併されるであろうし、私共なりの新館開設に対する考え方も持っていたので、いろいろと相談があるだろうと思っていた。ところが教育委員会内に設置された「近代美術館(仮称)の設置についての懇話会」を中心にして、美術館の規模、内容、建設場所等について検討が行われた。そこでは特に建設場所について話し合われ、21世紀を展望し将来の金沢の発展を考え、駐車場問題などを克服した大型の美術館を建設するには、広大な敷地が必要との見地から、郊外の西部緑地(北陸自動車道金沢西インター付近)が適当であるとする意見が発表された。私共にとってはまさに、寝耳に水という状態であった。

 私はかねがね美術館や博物館は都市の文化や芸術を象徴するものであり、都市の中心部に位置し建設してこそ意味があると考えていた。伝統文化が色濃く残っている金沢のような都市にあっては尚更のことであるという信念を抱いていたので、これは何とかしなければならないという責務に駆り立てられた。

 今考えてみれば随分大胆不敵な行動をとったものだと思っているが、県会議員の何人かの方々に、私のこうした気持ちを率直に申し上げ、議会で美術館は都心部に設置すべきだと発言して欲しいと依頼して回ったのである。本会議での議題にはならなかったが、常任委員会ではこのことが議論され、私は内心ほっとするものがあったが、上司からお叱りを受けるのでないかとびくびくするものがあった。