今月の美術館だより
 第237号 平成15年7月1日発行


●美術館小史・余話 35 
嶋崎 丞(すすむ) 当館館長

旧館開館20周年記念展開催について(2)

  20周年を記念し、「国宝源氏物語展」を開催することで徳川美術館長のご了解を得たことについては先号で述べた通りである。そこで、次は残りの国宝源氏物語を所有しておられる五島美術館へ、出品交渉ということになった。徳川美術館のご了解を得ているだけに、交渉は正直言ってすぐ解決するだろうと安易に考えていた。ところが、五島美術館からは「ものがものだけに五島昇氏(当時の東急社長)の許可がないとお返事できない。」ということで、回答は一次お預けとなった。それからしばらくの間は、展覧会開催の計画が暗礁に乗り上げたかたちとなり、毎日毎日まさに神にも祈る気持ちで一杯であったが、ひと月程して出品してもよいというお返事をいただくことができた。

 いよいよ20周年の昭和54年度に入り、徳川、五島両美術館へ挨拶にお伺いすると、「作品をどのようにして運ぶか。」ということが話題となった。今日ならば美術品輸送の専用車で運ぶということになるが、徳川美術館長からは、「万が一、車に事故が生じた場合、国宝源氏物語全作品が壊滅してしまうおそれがある。数人で手分けして、列車に持ち込んで輸送しよう。」という提案がなされ、7名がグリーン車で運ぶことになった。それにも増して、五島美術館〜東京駅、徳川美術館〜名古屋駅、金沢駅〜石川県美術館の間の輸送が大変で、警視庁と各県警へお願いしてパトカーの護衛付きでようやく無事に輸送することができた。

 この展覧会は、全作品を2週間展示替えなしで公開するという、大胆不敵そのものの展覧会で、こうした形で国宝源氏物語が公開されたことはまさに最初で最後のことであったように思う。徳川、五島両美術館に対し、あらためて感謝の意を表したいと思う。

 

 




国宝源氏物語展図録

「国宝 源氏物語絵巻展」
         図録