第245号 平成16年3月1日発行


●美術館小史・余話 42 
嶋崎 丞(すすむ) 当館館長

石川県立美術館の開館

  美術館の基本設計を担当した富家建築事務所を中心とする現場担当の方々と議論を重ねながら工事は順調に進行し、昭和57年12月には美術館の本体がほぼ完成した。開館予定の58年11月までには1年足らずの日数ではあったが、本体を乾燥させるためにそれなりの期日を確保することが出来てほっとした。それでも指定文化財を公開するにはまだ日数が足りないとして、文化庁から厳しい指導があり、展示室と収蔵庫全部に除湿器を入れ、10ヶ月に渡って空調の24時間運転を実施した。周辺部の外溝や庭園の工事は、極端な言い方をすれば開館の直前まで工事を実施してもさほど問題が生じない(事実一部はそうであった)が、貴重な文化財や美術品を収蔵展示する美術館は、一般の建築物とは異なった濃やかな配慮が必要であるということである。

 建築工事の完成と同時に、開館記念をどのような展観で飾るかが大きな課題であった。日本の美術を長年とりあげて優れた実績をあげてきた当館としては、新美術館の開館に当たっても日本美術の特質である「花鳥風月」をそのままの展覧会名称とし、古典と現代の名作を通して花鳥風月の心を明らかにしようという意図で企画開催し、開館を飾るにふさわしい豪華な内容であった。常設展示部門では、前田育徳会展示室で育徳会の名宝を久方振りで公開し、第1から第6の展示室では旧館以来の収蔵品に、開館に向けて収集してきた近現代の石川県ゆかりの代表作品を加えて展示した。開館式に招待された県内外の著名人約500名の人々からは大きな感嘆の声があがった。祝辞を読まれた洋画家故高光一也氏は、感極まって声が出ず、涙を流された情景は今も記憶に新しい。

※「美術館小史・余話」はこの号をもちまして連載を終了いたします。

 

 





開館記念展 花鳥風月展