今月の美術館だより
 第244号 平成16年2月1日発行


●美術館小史・余話 41 
嶋崎 丞(すすむ) 当館館長

新美術館の施設内容

  美術館の生命は、一般にその施設内容の在り方によって決定するといわれる。旧石川県美術館は、工芸品を中心とした古美術と、現代の伝統工芸品を展示することを目的として、谷口吉郎氏の設計により建設されたものであることは、この連載の3回目で述べた通りであるが、実に工芸品が見事に映える美術館であった。しかし、新館を建設する準備段階頃の昭和50〜60年代のいわゆる美術館建設ブーム時期に建設された日本各地の美術館を見てみると、建築家の建築作品という感じの美術館(ある意味では大切な条件であることは事実だが)が多く、美術館活動の機能面から見ると問題を抱えている美術館が多かったように思われた。

  そのような美術館は、絶対造るべきではないとの強い信念から、私は設計者ととことん議論する必要を感じた。新館の設計者は、富家宏泰氏で、富家建設事務所のスタッフの方々に対しては、随分と無理難題をお願いした。当館の構造を見て、他の多くの美術館と異なる点は、各展示室が全く個々独立した方式をとっていることである。多くの美術館は、展示室が連続したいわゆる廻廊方式をとっているものが多いが、この方式をとると動線(見る順路)が次の展示室へ移動する関係から、必ず往復したり、交差する個所が生ずる。独立方式は出入り口が同じであるため、動線は極めて明快に設定することができる。また、各展示室の温湿度も個々の展示作品に応じて設定できるメリットがあり、この方式で行こうということになった。そのため展示室の配置や、それに伴う空調系統を数多く設定する必要があり、建築事務所に随分と苦労をかけたが、今でも見学に来館する方々は、その配慮の見事さに驚いている。