第243号 平成16年1月1日発行


●美術館小史・余話 40 
嶋崎 丞(すすむ) 当館館長

新館開館に向けての作品収集

  すでに述べてきたように、新館の建設規模は旧館の5倍、展示面積にいたっては7倍の大きさに膨れあがるので、作品の収集を急ぐ必要があった。旧館時代に、古美術品と伝統工芸品は、一応最低限度の数を確保し、それらを専用展示する別館工芸館構想は中止することになったので、多少は展示室を埋めることはできるようになった。それに前田育徳会展示室を設置することにはなったが、育徳会の収蔵品は貴重な文化財、中でも古文書や古文献が大部分を占めており、この展示室の運用についても大きな課題が浮上してきた。また純粋美術部門としての近現代の日本画や洋画も収蔵品は皆無に等しく、彫刻部門にしても吉田三郎のコレクションがあるのみで、他は全く無く、常設部門の七つの展示室を十分に埋めるには、作品をどのようにして収集するかが大きな課題であった。

  幸いなことに、石川県は東京、京都に次いで美術工芸の伝統が総合的に育まれている土地柄であり、新美術館の使命や性格は、そうした伝統を生かした地方色豊かな美術館づくりを目指すよう答申がなされている。こうしたことをうけて、私共準備室の職員は、どのような作家の作品を収集すべきか急いでリストを作成することになった。そして専門委員会や開設準備委員会の承認を得て、所有者や作家に対して収集についての協力を仰ぐ交渉を始めることになった。私に与えられた美術館開設に関する仕事のうち、建設事務もさることながら、こういった収集交渉の仕事が大部分であった。ある作家の方が冗談に言われた言葉であると思うが、私の顔を見ると、「またあのたかりが来た」と思われたほど、しつこくお願いして廻り大変な苦労をしたが、今はそれが喜びとなっている。