今月の美術館だより
 第230号 平成14年12月1日発行


●美術館小史・余話 29 
嶋崎 丞(すすむ) 当館館長

全館壁面ケース化へ

 旧石川県美術館は、金沢市出身の日本を代表する建築家谷口吉郎さんの設計であった(本紙第204号参照)。石川県から谷口さんへ設計の依頼をした際には、収蔵展示作品のほとんどは古美術を含めた工芸作品であるので、それらを展示するにふさわしい美術館を設計して欲しいということをお願いしてあった。それをお受けになって、谷口さんは展示室の空間に箱型のケースを配置し、原則として壁面造り付けケースを設置しない方式を採用された。

 しかし、いざ開館し企画展を開催してみると、屏風や襖絵、それに大型の掛幅や額装の作品は、ほとんどが展示不可能であった。また箱型のケースによって展示室の見通しが悪くなり、看視の目が届きにくい。これらは名刀展事件(本紙第229号参照)につながったということもあり、展示室内部を全面造り付けケースにすべきという意見が出されるようになってきた。実は私もそうした意見に賛成した一人でもあった。ところが改造を行う場合には、設計者が他ならぬ谷口吉郎さんであるので、ご本人の了解をとる必要がある。そしてその鈴付け役が私に廻ってきた。今にしてみれば、もっと県組織の上で私のような若僧ではなく、上席の人がその任に当たるべきであったと考えられるが、随分と出過ぎた真似をしたものだと冷や汗をかく次第である。

 さて、谷口さんにお会いして、かくかくしかじか理由を申し上げると、「そのようなことを、なかなか話していただけるところは極めて少ない。大変参考になった。どうぞ実行して下さい。改造図面だけは一応見せて下さい。」と快くご承諾していただいた。設計依頼の時には無かったことを申し上げ、いわば設計にケチをつけることでもあったので、内心冷や冷やしていたが、さすが大建築家は心も違うものであるとつくづく思った。

              (全館壁面ケース化工事の完成は昭和47年3月)

 

 

 


箱形ケースでの展示

箱形ケースでの展示(昭和39年)


改装後の壁面ケース

改装後の壁面ケース(昭和47年)