今月の美術館だより
 第226号 平成14年8月1日発行


●美術館小史・余話 25 
嶋崎 丞(すすむ) 当館館長

「彩雉」の碑建立

 
当館収蔵品の最高の名作といえば、国宝に指定されている野々村仁清作「色絵雉香炉」であり、第1展示室がこの作品のために用意されて、常設展示が行われている。
 この作品を鑑賞するために、県内外はもとより、海外からの来館者も絶えることがない。絵葉書の売り上げも開館以来、断然トップの座を占めている。
 この雉香炉の作品を石川県(美術館)に寄附したのは故山川庄太郎さんであった。
 山川家は三代にわたって金沢市に住んでいた家柄町人で、三代ともども古美術品、中でも茶道具の収集家で茶人でもあった。
 第二次世界大戦後、三代目の庄太郎さんは、一切の職業や公職を退き、質素な生活を送って、伝来の古美術品を守っていた。
 昭和33年秋、昭和天皇が石川県へ行幸されることが決定し、また県では美術館の建設を準備中でもあったので、これら二つのことを記念して雉香炉を寄附していただけないか、ということになった。
 そこで寄附していただいた場合には、昭和天皇の天覧にも供するということで、県から庄太郎さんに対して打診が行われた。
 庄太郎さんは、私有するより公共財産として公開する機会を考えていたようで、名誉なこととして快諾され、旧美術館の建設時にも専用の展示室を設置して、開館に見事な華を添えていただいた。
 庄太郎さんが亡くなられてから10年目の昭和45年、この遺徳を顕彰する意味で旧美術館前庭に記念碑「彩雉」の碑が建立された。そして昭和58年の当館建設に伴い正面右側の中庭に移され、現在に至っている。
 彩雉の文字の揮毫は、故中西陽一前知事の手になるものである。

彩雉の碑

「彩雉」の碑(当館中庭)
 

 

 



山川庄太郎翁

故山川庄太郎翁