今月の美術館だより
 第225号 平成14年7月1日発行


●美術館小史・余話 24 
嶋崎 丞(すすむ) 当館館長

旧館会館十周年の歳を迎えて(二)

 
昭和44年3月、年度でいえば昭和43年度であったが、理屈をつけて十周年記念展として開催した「ロートレック展」は、先号で述べたように大変な盛況のうちに終了した。しかし厳密にいえば4月以降の昭和44年度が十周年に当たるので、館独自の企画記念展を開催する必要があった。

 そもそも日本古美術の名品を展示紹介することを目的として開館したこともあって、「開館記念展は日本の古美術で行こう」ということになった。しかし古美術の名品を単に集めての展示では能が無さ過ぎる。やはり十周年を豪華に飾る内容と名称が必要であった。
 そこで私の提案で「琳派の芸術」としてはどうかと話したところ、先輩のN氏から大変なお叱りを受けた。
 周知のとおり、今日でも琳派の作品を一堂に集めて展観を開催するということは至難の技である。それが開催することが出来れば、学芸員の実績として高く評価されるほどであった。当時としては、このような企画を、開館してわずか十年しか経っていない地方の公立美術館が、考えること自体が無謀に近かったのである。
 ただ、まだその頃は現在のように美術館が、どこの地域にでも存在するという状態ではなかった。
 例えば秋の展観予定ならば、その年の春から準備にかかるという、比較的ゆったりと行動を起こしても、他の美術館と競合することがない時代だったのは幸いだった。
 しかしそれにしても期日が迫っていたので、N氏と私との出品交渉の行脚がすぐに始まった。互いの努力の甲斐もあってか、宗達の風神雷神の図屏風を始めとして、光悦・宗達・光琳・乾山・抱一・芦舟・始興などといった著名な名品を、見事に集めることが出来たのである。
 今同じ事をやれといわれても、大変な努力が必要かと思われる。

 



琳派の芸術図録

開館十周年記念展
 琳派の芸術(図録)
 
会期 昭和44年10月4日〜26日