今月の美術館だより
 第231号 平成15年1月1日発行


●美術館小史・余話 30 
嶋崎 丞(すすむ) 当館館長

皇太子殿下のご来館

 旧石川県美術館の別館が開館したのは、この連載の20回目(第221号)で述べたように、昭和43年の9月21日であった。2階は本館から移した九谷焼の常設展示室となり、1階には茶室が設けられた。こうして、手狭で今ひとつという感じであった美術館も、施設内容ともに形を整えて、充実した活動が出来るようになったのである。

 そうした時に皇太子殿下(現在の天皇陛下)が石川県に行啓されることになり、美術館へもお立寄りになられることが決定した。皇族の方々の中でも、皇太子殿下ということになると、警備を含めて受け入れ態勢を整えることは大変なことである。またその頃の皇太子殿下ご夫妻は、どちらかといえば美智子妃殿下に対する国民的関心が高く、お二人の行啓されるところは、いわゆる「ミッチーブーム」の余波がまだ残っており、どこでも大変な混雑であった。従ってお二人がお立寄りになるということであれば、そうした混雑にもどう対応するかが悩みの種となった。ましてや美術館としては初めての経験であり、一体全体どうなることやらと、毎日毎日がその準備に追われていた最中、こんなニュースが舞い込んできた。確かご懐妊のご様子とかで、妃殿下の行啓は突如中止となり、皇太子殿下お一人のみの行啓になるというのである。まさにほっとするやら、がっかりするやら、何ともいえない気持ちで一杯になってしまった。

 殿下にお立寄りいただいた日は10月8日であり、別館が開館してからわずか17日目であった。殿下には、本館特別展示室の国宝雉香炉と、別館に移った古九谷の数々の名品をご鑑賞いただいたが、古九谷に特に深い関心を示され、ご案内役の当時の高橋(介州)館長に、いろいろとご質問されていた。

 

 

 






古九谷をご覧になる皇太子殿下
(今上陛下・右端)