毎年恒例の名物裂の展示を行います。「名物裂」とは、主に15〜16世紀頃にわが国に舶載された裂のうち、特に茶人や好事家たちに珍重され、茶器の仕覆や書画に用いられた裂をいいます。前田家では、三代利常の時代に、長崎にてそれらを求めたとされ、現在でも前田家伝来の名物裂は、その量と質で国内随一の豊かさを誇ります。これらは、東京と京都の両国立博物館にも分蔵されていますが、現在、本館に寄託されている育徳会所蔵の名物裂は金襴・緞子・間道・モールなど88種です。本特集では、うち金襴15種、緞子3種、錦1種、間道3種、モール1種の計23点と、名物裂で仕立てた能装束1領に、硯箱などの調度品を合わせて紹介します。
2年ぶりの公開なる「双鳳丸文様金襴」は、尾をなびかせながら羽を広げた2羽の鳳凰が丸文様を構成した上品なデザインの裂で、その昔足利義政がこの裂で仕立てた装束で能「二人静」を舞ったと伝えられることから、「二人静金襴」とも呼ばれています。
嘉永5年(1852)に仕立てられた能装束「色無金入蜀江形大丸紋唐織」の畳紙には、「古渡」の文字が記されています。「古渡」とは、名物裂の中でも特に古いものとして珍重された裂をいい、育徳会には、他にも能装束1領、佩楯に裂が用いられた甲冑が1領伝えられています。能装束や甲冑にまで名物裂が用いられるとは、前田家の豊かさがうかがえます。