この『だより』がお手許に届く頃は、既に桜も散り、目にも瑞々しい新緑の季節と思われます。同時期開催の企画展「新紀元 −革新の視座−」の関係で日本画・洋画・彫刻部門は第六展示室の一室のみの展示です。さて企画展は石川県ゆかりの五作家による革新的で実験的な創造の軌跡をご鑑賞いただくものですが、本展は館蔵品を中心に叙情性溢れる作品を中心とするもので見覚えのある作品ばかり。しかし企画展鑑賞後ご覧いただき改めてその魅力を再認識いただけるのではないかと願っています。以下、主な出品を紹介します。
日本画:石川義筆「巣造りの頃」。春は生き物にとっても新たな生命を育む季節です。温んだ水辺ののんびりした雰囲気の一シーン中にも、刻の移り変わりが静かに秘められているようです。
洋画:吉田冨士夫筆「交霊術 HARP」。幻想的で文学的なテーマの作品です。舞台設定は霊媒師の奏でるハープによる降霊の場面を表すもので、明るくカラフルな色合は呪術のイメージよりも現代的な感覚さえ感じさせています。
彫刻:畝村直久作「婦人の首」。本品は第6回日展特選受賞作で作者の出世作ともいえるものです。オーソドックスな作風で物静かな雰囲気の中にも凛とした気品を漂わせる作品となっています。小さいながらも観る者の心に残る確かな存在感を示しています。