近現代工芸の展示室では、石川県立美術館の所蔵品・寄託品から選りすぐった優品を約四十点展示します。工芸がさかんな石川県では、日展や伝統工芸展などで中心となって活躍する作家も多く見られます。展示作品の中から、その一人である十代大樋長左衛門氏の「飾りのある花器」を紹介します。
平成23年に文化勲章を受章した大樋氏による本作は昭和57年、第21回日本現代工芸美術展に出品されました。氏は同年に日展の文部大臣賞を受賞した「柿釉飾りのある花器　歩いた道」（東京国立近代美術館蔵）を制作しており、口縁の二点の「飾り」はほぼ同じ形ですが、「歩いた道」が細長くすっと伸びるような形であることに対して、本作は厚みがあり丸く重心が低い形です。
また「歩いた道」は上部のみ白釉であとはマットな質感の柿色の釉薬に覆われたシンプルな意匠ですが、本作は全体にやや灰色がかったきめの粗い白釉がかかり、下部三分の一に濃紺の刷毛目を入れ、水引のような細い朱の線を数度巡らせることで、重厚な器体に軽快な動きが生まれています。さらに二つの飾りの他に、水指のような耳も付いており、氏が造形作品と並行して制作していた茶道具との親和性を感じさせます。
　　同年に違った方向性を持つ二つの作品を制作する、氏の情熱とエネルギーは今も健在です。直前に開催される現代美術展の最新作と併せてご覧ください。