彫刻分野では春の情景や心情をテーマにした人体彫刻を中心に展示いたします。 代表的な作品として、得能節朗「春」、山瀬晋吾「春の音(1)(2)」、矩幸成「春を包む」などで、作品名称及び春を連想するポーズなどの作品が中心です。
油絵と水彩・版画の分野では、高光一也の「鶴仙渓の春」や村田省蔵の「斑雪」など昭和平成の作品と共に、浅井忠の「農夫とカラス」や同「桜」といった明治期の作品もご覧いただきます。
浅井の「農夫とカラス」は、カラスについばまれるのを承知で黙々と種をまく農夫に、、日本近代洋画の揺籃期に我道を歩んだ浅井自身の姿をなぞらえた寓意画とも見なされますが、土や緑の草、その上に見える男の勢いのある姿などからは、春の暖かさと活気を感じます。また「桜」は写実から離れ、デザイン性を強く出した浅井の水彩画です。川を挟んで桜の枝が2本シンメトリックに描かれています。京都時代の晩年の作と思われます。
また、人物画家として知られる高光ですが、「鶴仙渓の春」は山中の鶴仙渓を大胆なタッチで渓流と春の風に揺らめく木々の梢をとらえた明るい作品です。 四季折々、詩情豊かな風情を見せる日本の風土は、また詩情豊かな芸術を生み出す風土であるといってもよいでしょう。そこに育まれた日本人の感性は、古来より文学・絵画等、四季に応じて優れた芸術をつくり出してきました。中でも厳しい冬を越えて心待ちに迎える季節「春」は日本人にとって格別な思いを抱かせ、作品を生み出す動機ともなってきました。
もうすぐ春を迎える頃となりますが、美術館の展示室においても存分に春の雰囲気をお楽しみください。