加賀藩の文化政策は、幕藩体制に屈従を強いられた藩の独自性を主張する重要かつ有効な方策でした。軍事力や政治力を全面に出せば幕府を刺激し、改易の危機に直面します。しかし文化という土俵の上ならば、幕府に正面から挑戦することができます。加賀藩三代藩主の前田利常は、幕府から様々な圧迫を受けた京都の後水尾天皇を模範として、質・量ともに幕府を凌ぐ文化政策を打ち出しました。そしてその政策は、儒教や博物学的に深化されて五代藩主前田綱紀に継承されました。
加賀藩の文化政策は、大きく収集と育成に大別されます。名品の収集は、大名の格式を対外的に印象付ける重要な意義を持っていました。前田家の収集は、日本の古筆や典籍類から、広く中国や西洋の文物にまで及んでいます。しかし、単に世界各地から名品を集めることにとどまらず、藩経営の一環として美術工芸の育成事業を行っている点に前田家の独自性があります。名工を招聘し、武具の制作や保守などで培われた技術の地盤を活用して、高い技術と洗練された美意識が融合した名作の数々が17世紀を中心に加賀藩から生まれました。
今回の特別陳列では、収集された名品として「世説新語」、黙庵霊淵筆「四睡図」、「荏柄天神縁起絵巻」上巻、周文筆と伝えられる「四季山水図」、雪舟筆と伝えられる「四季花鳥図」(以上、重要文化財)を展示します。そして会期が日本伝統工芸展金沢展とも重なることから、加賀藩の美術工芸育成事業を象徴する重文「百工比照」から金色類、木之類、釘隠引手、釘隠金具を展示します
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