前号の美術館だよりで概要をお知らせしましたが、今年は、五代藩主前田綱紀の甲冑と陣羽織、並びに「軍装図録」を中心に展示します。「軍装図録」とは、文化二年(一八〇五)に牧昌左衛門が、初代利家から十一代治脩まで各代の甲冑や陣羽織等を四帖に収録したものですが、そのなかでも五代綱紀の「軍装図録」のみが、唯一単独で一帖に仕立てられています。この図録とともに現在前田育徳会が所蔵する綱紀の甲冑(一点)と陣羽織(五点)をあわせて展示しますので、武人綱紀の装いの美学を総覧ください。学者大名といわれる綱紀ですが、幅広い文化への造詣が、こうした装いにも象徴的に表れています。これまでは、十四代慶寧所用と伝わっていた「緋羅紗更紗梅紋陣羽織」が、綱紀の「軍装図録」に掲載されている陣羽織のように思われますので、あわせて展示します。江戸時代前半(十七世紀から十八世紀前半)に渡来した更紗(色鮮やかな文様が染められたインド製の木綿布)は、絹織物を主とする渡来裂である「名物裂」にも比肩するほど憧憬されました。前田家では三代利常が「名物裂」を収集していますが、おそらくこの更紗もそうした一連の収集と思われます。また、六代吉徳の甲冑にも名物裂の錦が使用されております。江戸時代をリードした藩主たちのファッションセンスをお楽しみください。