婚礼調度とは婚礼の際に女性が嫁ぎ先へ持参するもので、大名家では統一された意匠と家紋が施された豪華な蒔絵装飾の婚礼道具が準備されました。徳川美術館の「初音の調度」に代表されるように、その内容品は、三棚、化粧道具、香道具、文房具、遊戯具、飲食具、その他の調度品などその数量は膨大なものでした。
前田家では徳川将軍家からの輿入れが多々ありましたが、それは将軍家にとって、外様大名で大藩の前田家を配下に与するために姻戚関係を結ぶことが、必要不可欠の方策であったことが要因でした。三代藩主利常へ二代将軍秀忠の二女珠姫(天徳院)が、四代光高に家康の孫で水戸の徳川頼房の二女阿智子が、五代綱紀に保科正之の二女で二代将軍秀忠の孫磨須子が、六代吉徳に五代将軍綱吉の養女松子が、十三代斉泰に十一代将軍家斉の二十一女偕子(溶姫)がそれぞれ輿入れしています。前田育徳会には溶姫の婚礼調度がまとまって所蔵されています。松唐草を図案化した意匠と徳川家の葵の紋が蒔絵されています。三棚の一つである書棚と貝桶は失われていますが、当時の大名の婚礼調度として貴重です。
今回の展示では、厨子棚・黒棚・十二手箱・大小角赤手箱・歯黒箱・櫛箱などを展示し、大名家の晴れやかな婚礼調度の一端をご覧頂きます。なお、現在の東京大学の赤門は、文政10年(1827)11月に溶姫を迎えるに際し、御守殿門として建てられました。