昨年は、長谷川等伯の没後400年にあたったことから、東京と京都で大規模な回顧展が開催され、等伯を再認識する機運が全国的に高まりました。石川県立美術館は長谷川等伯の作品を所蔵していませんが、等伯と号する前の信春時代の重要な作品である、石川県指定文化財「十六羅漢図」(霊泉寺蔵)と「日蓮聖人像」(実相寺蔵)が寄託されています。この2点は、先の回顧展をはじめ全国から借用の要望が多く寄せられることから、文化財保存の観点からも、全幅そろって石川県立美術館で同時に公開する機会が近年ありませんでした。
そこで今回の特集では、「十六羅漢図」全八幅と、等伯が27歳の時に描いたことが確実視されている「日蓮聖人像」をあわせて展示し、等伯の画業展開の一端を紹介したいと思います。興味深いのは「十六羅漢図」の制作時期です。「日蓮聖人像」と比較すると、「十六羅漢図」には人物描写を数多くこなした習熟のあとがうかがえると言うことができるかも知れません。また「十六羅漢図」に描かれた岩の表現には、等伯と号するようになって制作された作品と共通する手法が認められます。したがって、信春から等伯への移行期の作品と位置付けることもできるでしょう。