洋画家で金沢美術工芸大学芸術学教授寺田栄次郎氏が描く、10cm四方の新作ミニアチュール作品による特集展示を開催します。
寺田氏はヨーロッパ古典絵画技法と描画材料について研究を続け、その成果を自己の創作の糧としてきました。以前、中世キリスト教絵画にみられる「黄金背景テンペラ画」を現代に生かし、静物や女性像を金箔地の大画面に展開した時期がありました。その際には、テンペラや金箔接着剤の研究が基礎となり、近年は17世紀オランダの油彩技法と材料研究を元に、絵具と下地剤をほどこした厚板を自作し、緻密な描写で実写と幻想を交えた風景画を創作しています。寺田氏にとって研究と制作は表裏一体のものといえます。
写実と幻想が混淆した一辺10cmの小画面は、描かれた広大な空間と現実のサイズとの乖離に驚かされます。人の視野は上下より左右に広く、その反映として油彩風景画は横長が大半です。したがって風景を小さな正方形に描く寺田氏の作品は異例であり、鑑賞者は正方の枠を通して景色を見、そしてその緻密さゆえに、四角のフレームを持つ望遠鏡で覗いているかのような思いを感ずるのです。
異例の空間は幻視を伴います。微細で熟視を強いる画面は、いつしか見る者を奥行きの深い巨大な世界に誘い、あちこちとその世界を逍遙しているのではとの幻想を抱かせるのです。自己を微細にして巨大な空間に転送し、一点一点の作品がうかがわせる深遠の世界を堪能いただければ幸いです。