近代日本画とその周辺
前田育徳会尊經閣文庫分館
   平成21年 Ⅱ期:4月25日(土)〜6月1日(月)  
 前田育徳会所蔵の近代日本絵画コレクションを中心に紹介する特集展示「近代日本画とその周辺」を開催します。前田家のコレクションといえば、江戸時代以前の作品を連想しがちですが、明治時代に住まいと生活様式が変化したことによって、新しい時代の作品も揃えられました。
 明治35年(1902)、長く江戸上屋敷として利用されていた本郷の地に、新たな住まいが建設されることになり、「西洋館」と「日本館」が完成します。明治43年(1910)には念願叶って、新しい邸宅へ明治天皇の行幸が行われることになりました。『明治天皇紀』より行幸の記録を追いながら、本特集で展示される作品について、紹介しましょう。
  「七月八日。天候は曇り。十一時十二分、到着。前田家の親族など数十人が門で奉迎し、前田利為と妻渼子らが玄関で奉迎。はじめ西洋館で、金沢の名品や茶菓、『金沢万葉』や刀が献上された後、川端玉章の『花鳥図(波上千鳥)』などの日本画を天覧。いずれも予め頼んで描かせたものなので、もし宸慮(天皇の心)に適うものがあれば、献上すると利為。あわせて今日は、荒木寛畝・川端玉章・福井江亭らが日本館に控えており、画題を賜り、その場で揮毫させるとのこと」これが、現在も育徳会に伝わる『梅(御臨幸記念)』です。
  更に『明治天皇紀』より、明治天皇による前田邸行幸の様子をのぞいてみましょう。
「午後、能楽御覧所に出御。桜間伴馬による『俊寛』など天覧。利為とその家族、旧藩士も観覧を許される。能舞台は巨資を投じて新たに造ったもので、鏡板の松は川端玉章の筆による。能終了後は奥座敷にて、陳列された家什を天覧。」この時、『古今和歌集』など前田家に伝わる宝物が陳列された日本館奥座敷の襖絵が、橋本雅邦によるものだったのです。
 雅邦の晩年に描かれたこの襖絵は、春夏秋冬と移り変わる山水の光景を描いたもので、東洋に古くより伝わる伝統的な画題「山水」を、遠近法や陰影法といった西洋絵画の技法を用いて描き出した大作です。特に、春の穏やかな光に包まれる水面と岩場、遠くに見える山々を描き出した春の景は、今の季節に相応しいと言えましょう。4月25日からは、夏の景もあわせて展示します。
 さて、明治天皇を迎えた本郷邸でしたが、大正15年(1926)にその解放が決定し、前田家は退去を余儀なくされます。新たな邸宅は、現在、前田育徳会が位置する駒場の地に設けられ、雅邦の襖絵は新「日本館」にも用いられることになります。襖絵こそ当時とは異なりますが、駒場公園にある「日本館」は、現在は憩いの場として無料解放されています。
番号 
作品名  作者名   員数 展示期間  期間による展示替え 
1
梅図(御臨幸記念) 川端玉章ほか 1幅    
2
澄潭 結城素明 1幅    
3
梅見茶屋 鏑木清方 1幅    
4
瀞峡時雨図 山元春擧 1幅    
5
昭代名家画帖 橋本雅邦 1帖   場面替え
6
四季山水図襖 橋本雅邦      
    春の景   4面 Ⅰ・Ⅱ 8面のうち4面ずつ
    秋の景   4面  
    夏の景   4面  
7
深山の冬 山元春擧 1幅    
8
秋景山水図 橋本雅邦 1幅    
9
鳥画帖       3帖のうち場面替え
10
四季花鳥図   4幅    
    麦圃雲雀(春) 村瀬玉田      
    雲間子規(夏) 野村文挙      
    野草に鶉(秋) 瀧 和亭      
    波上千鳥(冬) 川端玉章      
11
雌雄矮鶏 高村光雲 1対    
12
竹取翁 米原雲海 1躯    
 
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