展覧会記録

  特別公開 大作曲家の自筆楽譜    
 前田育徳会尊經閣文庫
  平成20年10月27日(月)〜11月10日(月) 会期中無休     

 前田育徳会に著名な作曲家の自筆楽譜や書簡などの第一級の音楽資料が所蔵されていることは、内外の一部の研究者を除いて一般には余り知られていません。これは作品の保存上定期的な公開が不可能なことによるもので、今回は22年ぶりで楽譜の存在が知られてからもようやく3回目となります。これらのコレクションは、前田家16代当主の利為侯(1885〜1942)が駐英大使館附武官としてロンドンに滞在した1927年から1930年の期間に、ナポレオンやネルソン提督、ピョートル大帝らの書簡類とともに外国著名人の筆蹟蒐集の一環として購入されたものです。
コレクションの内容は、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、マスネ、ラフマニノフの自筆楽譜、ショパンの自筆書簡、友人によるショパン作品の筆写楽譜です。このうち研究者の間で最も注目されているのがバッハによる『ルカ受難曲』第40曲のコラール「深き淵より」です。『ルカ受難曲』自体はバッハの作曲ではありませんが、バッハが聖週間に上演する目的で作者不詳の作品を息子とともに筆写した楽譜が存在しています。そして今回公開されるのは、その第40曲の再上演のための編曲版です。
  予言どおりイエスを否認した弟子ペトロの悔悟、そしてそれをも許すイエスの慈愛というキリスト教信仰の根幹に関わるエピソードを、最晩年のバッハは修辞的な手法を駆使して簡潔かつ情感深く表現しています。
続いて注目されるのが、モーツァルトのピアノ協奏曲第26番「戴冠式」第二楽章他のスケッチです。使用している五線紙や、弦楽五重奏曲のスケッチの存在から、1787年に書かれたものと考えられていますので、こちらもモーツァルト晩年の筆跡です。今回はこうした大作曲家の息吹にふれるまたとない機会となります。どうぞご期待ください。


No  作者名 楽曲 時代
1
バッハ、ヨハン=セバスティアン ルカ受難曲第40番 コラール「深き淵より」BWV246 1743〜1746年
2
モーツァルト、ヴォルフガンク・アマデウス ピアノ協奏曲第26番「戴冠式」第2楽章スケッチ他 1787年
3
ベートーヴェン、ルードヴィッヒ・ファン 断片スケッチ  
4
シューベルト、フランツ 歌曲 誤りし時 D.409 1816年
5
ショパン、フレデリック・フランソワ 手紙、ユリアン・フォンタナ筆写によるマズルカ 作品33-3  
6
マスネ、ジュール=エミル=フレデリック 歌劇 エロディアード 第3幕第1場 1882年
7
ラフマニノフ、セルゲイ 前奏曲 作品3-2  



 石川の名宝                                     第2展示室
  平成20年 10月27日(月)〜11月10日(月)会期中無休

 第二展示室では、「石川の名宝」を特集します。石川県内の寺社および本館が所蔵する作品の中から、重要文化財(重文)や石川県指定文化財(県文)を中心とした展示です。ここでは、その中からいくつかの作品について述べてみましょう。
はじめに、秋に相応しい作品を二つ。華やかな金地が印象的な俵屋宗雪の『群鶴図屏風』(県文)は、群れる鶴と萩や笹が美しく描かれた作品で、数少ない宗雪作品の一つとして知られています。『蒔絵秋月野景硯箱』(県文)は、加賀蒔絵を代表する五十嵐道甫の作と伝えられ、月明かりに照らされた岩場より伸びる芒・菊・桔梗などの秋草を、金・金銀金具・螺鈿の技法を用いて美しく表現した硯箱です。秋草は、その叙情性から、美術作品のモチーフとしてよく用いられました。
 続いて、県内の寺社が所蔵する作品より。金沢市の長坂に位置する曹洞宗の古刹・大乗寺は、日本において曹洞宗が発展した諸相を今に伝える貴重な古文書を多く所有しています。その中のひとつ『三代嗣法書』(重文)は、開山・徹通義介、二世・螢山紹瑾、三世・明峯素哲の三人による自筆の嗣法書として伝えられるものです。一方、加賀市の菅生石部神社所蔵の『正親町天皇御宸翰』(重文)は、永禄四年(一五六一)の夜に、称名院の歌会の際、「閑見月」という題で詠んだ歌の懐紙です。穏やかに秋の月を詠み上げています。
 最後に、展示のお問合わせの多い久隅守景作品です。今回は、中国風の衣装を着た人々で描かれた『四季耕作図屏風』(県文)を紹介します。(重文の『四季耕作図』は、来年二〜三月に公開予定)同図を得意とし、数多く描いた守景でしたが、よく見ると「農作業について、実はあまり理解をしていなかったのでは?」と気付いてしまう箇所があります。その箇所とは?同屏風を前に、探してみてください。
 その他『緑地桐鳳凰文唐織』(重文)も展示されます。この機会をお見逃しなく、お楽しみください。


No   作品名 作者名 員数 時代
1   笹に兎図 久隅守景 1幅 江戸17世紀  
2   蒔絵螺鈿秋月野景図硯箱 伝五十嵐道甫 1合 江戸17世紀  
3   蒔絵菊慈童図薬籠箱 伝五十嵐道甫 1基 江戸17世紀  

4

  群鶴図屏風 俵屋宗雪 6曲1双 江戸17世紀  
5   緑地桐鳳凰文唐織   1領 桃山〜江戸17世紀 当館
6   佛果碧巌破関撃節上・下(一夜碧巌集) 希玄道元 2冊 鎌倉13世紀 大乗寺
7   羅漢供養講式稿本断簡 希玄道元 1巻 鎌倉13世紀 大乗寺
8   韶州曹溪山六祖師壇経   1帖 鎌倉13世紀 大乗寺
9   三代嗣法書 徹通義介・瑩山紹瑾、明峰素哲 1巻 鎌倉〜南北朝14世紀 大乗寺
10   支那禅刹図式(寺伝五山十刹図)   2巻 鎌倉13世紀 大乗寺
11   開山徹通義介頂相 菊堂祖英 1幅 永享6年(1434) 大乗寺
12   三世明峰素哲頂相   1幅 室町15〜16世紀 大乗寺

13

  四季耕作図 久隅守景 6曲1双 江戸17世紀  
14   天狗草紙(園城寺巻)   1巻 鎌倉13世紀  
15   後深草天皇宸翰御消息   1幅 鎌倉13世紀  
16   後奈良天皇女房奉書   1幅 天文16年(1547) 気多大社
17   正親町天皇宸翰御詠草   1幅 永禄4年(1561) 菅生石部神社
18   水仙模様縫箔小袖   1領 菅生石部神社  
古九谷          
1   青手牡丹図平鉢   1口 江戸17世紀  
2   青手老松図平鉢   1口 江戸17世紀  
3 色絵鶴かるた文平鉢   1口 江戸17世紀  
4   色絵宝尽鷺文平鉢   1口 江戸17世紀  
5 ○□ 色絵布袋図平鉢   1口 江戸17世紀  
6 色絵鶉草花図平鉢   1口 江戸17世紀  
7 色絵鳳凰図平鉢   1口 江戸17世紀  
8 色絵百花散双鳥図平鉢   1口 江戸17世紀  
9   色絵石畳双鳳文平鉢   1口 江戸17世紀  
10 青手樹木図平鉢   1口 江戸17世紀  
11   青手葡萄図平鉢   1口 江戸17世紀  
12 青手桜花散文平鉢   1口 江戸17世紀  
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