8月25日(木)〜9月19日(月・祝) 会期中無休
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●特別陳列 吉田冨士夫 −手品師の息づかい−

 洋画家吉田冨士夫氏は、道化師や手品師、催眠術師をテーマに幻想的な作品を描き続けたことでよく知られます。その画面は、艶のある透明な絵具を何層も重ねて作りあげたもので、テーマと相まって、切なく美しい独自の雰囲気を醸し出しています。

 マチエール(絵肌)の美しさは油絵具の魅力の一つですが、意外と無頓着な作家が多いものです。なかで吉田氏の透明感を持った美しい絵肌は際だっていますが、それは画業を始めるに際し、氏が陶磁器の絵付けを職業としたことと深く関わっていると思われます。陶磁器制作は画業と並行して生涯にわたって行われ、数々の個展を開催し、陶芸家としても名を馳せました。

 吉田氏のイメージの源泉は幼い頃に見たサーカスや、かつて「北陸の宝塚」ともうたわれた内灘・粟崎遊園での、少女に催眠術をかけて浮かべる手品の想い出であったといいます。いずれの作品にも不思議な物語があり、観る者は美しくも哀しい画面のあちこちをさまよい歩き、尽きぬ思いを抱くのです。

 こうした不可思議な物語性は、吉田氏が若き日に4 年間スペインへ陶芸指導に招かれ、ゴヤやベラスケスを知ったことで、より展開していったと考えられます。つまり、ベラスケスの鏡を多用した虚と実が渾然とした世界、またゴヤの『カプリチョス(気まぐれ)』などに見られるような謎めいた黒の世界、これらが吉田氏の哀調を帯びた画面に、不気味なドラマを潜ませて、骨太の絵画世界を築き上げているのです。

 本展は二紀会重鎮として活躍された吉田氏の創作の軌跡を、初期の墨彩画から晩年の文楽をテーマとする和のイメージを強めていった油絵まで、当館所蔵品に吉田家並びに各機関所蔵の優品を交えてご覧いただくものです。




催眠術'80A  1980



逢う魔が刻の笛の音 1994

吉田冨士夫(よしだ ふじお)氏 略 歴
昭和4 (1929)
5月25日、石川県金沢市長町に生まれる
21 (1946)
石川県立工業学校図案科卒業
24 (1949)
第3回二紀展初入選
25 (1950)
第4回二紀展佳作賞 山口操助に兄事
26 (1951)
第5回二紀展褒賞 宮本三郎に師事
44 (1969)
二紀会会員に推挙される
50 (1975)
フランス美術賞展アカデミー・デ・ボザール賞
55 (1980)
第34回二紀展文部大臣賞
62 (1987)
二紀会理事となる
平成4 (1992)
金沢市文化賞受賞
6 (1994)
第48回二紀展栗原賞
8 (1996)
石川県文化功労賞
13 (2001)
5月20日逝去 享年71歳
 
 ◆観覧料=一般350円 (280円) 大学生280円 (220円) 高校生以下無料
                    (  )内は20名以上の団体料金
*常設展観覧料に含まれます。
 
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