●香月泰男展 〈私の〉シベリア、そして〈私の〉地球
香月泰男は1911(明治44)年10月、山口県三隅村(現・三隅町)に生まれました。少年時代から画家を志し、東京美術学校(現・東京芸術大学)を卒業。北海道の旧制中学校、下関の高等女学校の美術教師を勤めながら、国画会展や文部省美術展に出品しました。しかし、1943年に招集され、満州(現・中国東北部)へ行き、ハイラルで軍隊生活を送りました。45年の敗戦で、シベリアの収容所へ送られ、ナホトカから舞鶴に帰国するまでの2年ほどの間に、3ヶ所の収容所で飢餓と強制労働、極寒の生活を強いられました。その体験がのちに、彼の代表作となる〈シベリア・シリーズ〉を生み出させました。
また、香月の画業のもう一つの柱となる作品群は、彼が帰省後、「〈私の〉地球」と称した“三隅”での暮らしのなかで目にした、何気ない自然の景観、草木や鳥たち、台所の風景などを題材としたものです。また〈シベリア・シリーズ〉を描くうえで模索し、そして作り出された、香月ならではの“美しい黒”の絵の具は、こういった数多くの作品群にも効果的に用いられています。
本展では、香月の初期から晩年までの代表作や〈シベリア・シリーズ〉のうち57点の油彩作品、さらに戦場から家族へ宛てた絵葉書《ハイラル通信》、水彩、素描、陶画類に、おもちゃ、テラコッタなどの小彫刻からなる多様な造形世界も紹介します。
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