4月25日(木)〜5月19日(日)会期中無休 | ||
●日本芸術院会員 大樋長左衛門の世界 |
加彩「ひさご」 大樋美術館蔵 |
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さて、例えば第1グループの作品を見るとき、まず誰しもが驚くのはその独自の造形感覚ではないでしょうか。そもそも大樋焼の茶陶は、陶土を手捏(てづくね)と削りを主として成形されるもので、塑像彫刻にも通じる造形法によっています。したがって、形に対する厳しい指向性は、茶陶作りとは一見かけ離れたものと思われがちですが、むしろ近親性の強いものと言えます。何よりも東京美術学校で鋳金を学んだことは、そうした感性を高めるのに役立ったことは間違いありません。 次に目を見張るのは、伝統ある大樋焼特有の飴釉をはじめとして、白釉、碧釉、柿釉、黒釉、あるいは三彩釉など多種類の釉調を自在に操るばかりか、千点文や三島手、あるいは布目などの加飾法にも独自の工夫を凝らすなど、文字通り多彩な作陶世界が広がっていることです。それを可能にしたのは、やはり何と言っても、京都楽家の技術を直接受け継ぎ、江戸時代から現在も続くただ一つの地方窯である大樋焼窯元の長男として、早くから作陶の基本技術を身につけたことがまず挙げられます。そしてそのうえに茶陶を含めた茶道に親しむことで、東洋陶磁全般についての幅広い知見を得たことによるものと思われます。 とはいえ、それらを実際に作品として再現することはそうそう誰にでも出来ることではなく、しかもその模倣に終わらずに、そこから触発されて独自の作陶世界を築くことは並大抵のことではありません。第2の茶陶グループこそ、その成果が結実したものと言えましょう。 「美しい形を究めるという美意識は、茶わんだけ作っていれば出来るものとは考えられません。他のものをやってまた茶わんを作るべきであると思います」との信条こそ、まさに氏の創作の原点でしょう。 換言すれば、東洋陶磁の古典をよく咀嚼しながら、常に新しい作陶表現を目指しているのが大樋陶芸の根幹なのです。茶道の世界で厳然と受け継がれている美の規範と、彫刻や金工までも含めた現代的な造形感覚とが折り重なり、伝統と革新が表裏一体となっていることこそ、大樋陶芸の魅力の源泉であると思わざるを得ません。 |
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講演会「私の作陶人生」(講師・大樋長左衛門氏)は5月12日(日)に開催します。 | ||