4月25日(木)〜5月19日(日)会期中無休
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日本芸術院会員 大樋長左衛門の世界


 本展覧会は、平成11年に日本芸術院会員に就任された、金沢市在住の陶芸家である大樋長左衛門氏の初めての本格的な回顧展として企画されました。
 氏は、昭和2年に九代大樋長左衛門の長男として金沢に生まれ、伝統ある大樋焼の茶陶作りを受け継ぐとともに、感性鋭い現代感覚にあふれた作品を日展などに発表し続けてきました。
  その作陶世界は、彫塑的要素の強い造形力が前面に押し出された作品と、純然たる茶陶類の大きく二つに分かれることは一目瞭然です。すなわち、日展や日本現代工芸美術展を主とする展覧会作家としての世界と、伝統ある茶陶の卓越した名人としての世界です。
 そこで本展覧会を構成するにあたっては、日本芸術院会員として大成するまでの道程を見るために、日展を中心とした展覧会出品作を主にしたもので、形体や大きさなどを加味して【壺・花器Ⅰ】【置物等】【壺・花器Ⅱ】の三つに細分するものを第1グループとし、また【茶わん】【水指】【香合】【花入】【食籠じきろう等】の用途別に編成した伝統的な茶陶類を第2グループとしました。
  そして建築空間との関わりの強いもので、実作を展示できる【陶額】と移動不可能なため写真パネルで展示せざるを得ない【陶壁】の二つからなるものを第3とし、最後に達意あふれる画技を示す【絵画】と、軽妙かつ飄逸さにみちたデザインによる漆芸の棗や盆、そして刳物の椅子などの【他の工芸】とをあわせた陶芸以外のグループという、4つの大きな柱を建ててて構成することにしました。
 その結果、総数165点という多くの点数によって構成されることになり、文字通り氏の旺盛な創作活動の全容を示すのにふわさわしい内容となりました。



加彩「ひさご」
大樋美術館蔵



黒絵魚文丸壺
当館蔵



大樋飴釉茶碗
石川県兼六園管理事務所蔵

  さて、例えば第1グループの作品を見るとき、まず誰しもが驚くのはその独自の造形感覚ではないでしょうか。そもそも大樋焼の茶陶は、陶土を手捏(てづくね)と削りを主として成形されるもので、塑像彫刻にも通じる造形法によっています。したがって、形に対する厳しい指向性は、茶陶作りとは一見かけ離れたものと思われがちですが、むしろ近親性の強いものと言えます。何よりも東京美術学校で鋳金を学んだことは、そうした感性を高めるのに役立ったことは間違いありません。
 次に目を見張るのは、伝統ある大樋焼特有の飴釉をはじめとして、白釉、碧釉、柿釉、黒釉、あるいは三彩釉など多種類の釉調を自在に操るばかりか、千点文や三島手、あるいは布目などの加飾法にも独自の工夫を凝らすなど、文字通り多彩な作陶世界が広がっていることです。それを可能にしたのは、やはり何と言っても、京都楽家の技術を直接受け継ぎ、江戸時代から現在も続くただ一つの地方窯である大樋焼窯元の長男として、早くから作陶の基本技術を身につけたことがまず挙げられます。そしてそのうえに茶陶を含めた茶道に親しむことで、東洋陶磁全般についての幅広い知見を得たことによるものと思われます。
  とはいえ、それらを実際に作品として再現することはそうそう誰にでも出来ることではなく、しかもその模倣に終わらずに、そこから触発されて独自の作陶世界を築くことは並大抵のことではありません。第2の茶陶グループこそ、その成果が結実したものと言えましょう。
  「美しい形を究めるという美意識は、茶わんだけ作っていれば出来るものとは考えられません。他のものをやってまた茶わんを作るべきであると思います」との信条こそ、まさに氏の創作の原点でしょう。
 換言すれば、東洋陶磁の古典をよく咀嚼しながら、常に新しい作陶表現を目指しているのが大樋陶芸の根幹なのです。茶道の世界で厳然と受け継がれている美の規範と、彫刻や金工までも含めた現代的な造形感覚とが折り重なり、伝統と革新が表裏一体となっていることこそ、大樋陶芸の魅力の源泉であると思わざるを得ません。
講演会「私の作陶人生」(講師・大樋長左衛門氏)は5月12日(日)に開催します。
 ◆観覧料=一般350円 (280円) 大学生280円 (220円) 高校生以下無料
                    (  )内は20名以上の団体料金
*常設展観覧料に含まれます。
 
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