前田育徳会展示室

特別陳列 天神画像と文房具

11月29日(水)〜12月24日(日)

 天神に尊称される菅原道真(すがわらのみちざね)は、平安時代前期に学者の家に生まれた秀才で、我が国の歴史上で一、二を争う経歴を誇ります。そしてそのエピソードは今更言うまでもない程有名なものといえましょう。
 
摂関政治が進行中であった当時に、道真は天皇とともに律令制度復権を目指し、果敢にチャレンジしました。盤石で強大な権勢を振るう藤原家をはじめとする貴族社会で形成される政治の世界にあって、学者の出という低い身分ながら、道真は自分の才能と努力によって右大臣という最高ポストに登りつめます。天皇の信も厚く、行政改革もこれから、という時に貴族の反撃にあってあえなく失墜し、遠く九州に流され失意の内にその生涯を閉じました。
 行政手腕から得意の学問・文芸にいたるあらゆる分野で目覚ましい活躍をみせた道真は、死後に天神として祀られていきます。天神信仰の形成期は、我が国の国風文化形成期と軌を一にするもので、それまでの古代
的な神祇を収斂し、仏教と習合しながら一大信仰体系を形成し、我が国の基層文化に大きく関わることとなります。
 天神信仰に係る絵画では、まず鎌倉から南北朝時代までの仏教色の濃い天神縁起絵巻がみえます。そして室町時代以降からは、今回展示の単独の天神像が描かれました。それには渡唐天神や衣冠束帯のスタイルがみえ、衣冠束帯姿の像様においても初期の怒相や、道真のエピソードに基づいたものから、福々しい穏やかなものへと変化が見えます。なお、最近の研究では、衣冠束帯の天神画像は天神と連歌の結び付きによって、室町以前からみられたともいわれています。
  道真没後千百年の遠忌に向け、来年以降に展覧会などが計画されており、道真と天神信仰に関心が高まることと思われます。
 なお、文房具は明時代の舶載品が中心です。手に収まる小さいものですが、各種の素材で多種多様で変化に富んだ机上の工芸品の数々がご覧頂けます。
 主な展示作品    

           渡唐天神画像
           北野神前開眼菅公画像
           瑪瑙石硯
           白玉雲龍彫紫檀座墨床
           銅鍍金翡翠形水滴 など                   
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第2展示室

特集 −加賀の古刹− 大乗寺の名宝
 

11月29日(水)〜12月24日(日)

 大乗寺は寺伝によると、冨樫家尚が弘長二年(1263)加賀押野庄(石川郡野々市町)に、真言僧である澄海(ちょうかい)阿闍梨を請して建てられましたが、正応四年(1291)に、越前の永平寺第三世であった徹通義介を開山にして曹洞寺院に改まります。その後、大乗寺は二世に瑩山紹瑾(けいざんじょうきん)が、三世には明峰素哲(めいほうそてつ)といった高僧が住持となり、大乗寺は大いに宗風を宣揚するとともに、祗陀大智(ぎだだいち)をはじめとする多くの名僧をも輩出し、明峰派の母胎として興隆することとなります。
  南北朝〜室町時代にかけては、足利幕府の祈願寺となり、冨樫家を外護にして栄えますが、加賀一向一揆では外護を失い、さらに信長軍の侵攻の兵火によって一山は灰燼に帰すこととなります。江戸時代に入り野々市から金沢に移転した大乗寺は、寺域を転々としながらも有力加賀藩士などを新たに壇越として復興を図りました。 さらに江戸時代中期には、月舟宗胡(げっしゅうそうこ)と卍山道白(まんざんどうはく)が住持となって宗統

復古運動が強力に推し進められ、規矩大乗と称せられるように古規を復興し、また叢林の復活と整備が図られ中興をなしました。また現在地(金沢市長坂町)に寺地を得て移転し、伽藍の整備を進め、また全国から多くの僧が雲集するなど隆盛をみせ、宗門の拠点としてのほか、加賀の古刹としても新たな発展の素地が築かれることとなります。
 しかし江戸時代には永平寺と総持寺両本山の間にあって宗門内の争い(永平寺との本末事件や古規紛争)に揺れることがあったものの、歴代住持や末寺などの働き掛けと、藩や壇越の加護に幕府の理解を得るなどにより難局を切り抜け、創建以来の伝統を守り今日に至っています。まさに大乗寺の盛衰・消長が曹洞宗の変遷の歴史に大きく関わるものであったといえます。
 今回の展示では、大乗寺の永い歴史において、住持や大乗寺伝来の文化財などの名品のほか、寺の歴史を物語る資料を含めての展示となっています。

 主な展示作品   (は重要文化財)

        
佛果碧巌破関撃節(一夜碧巌集) 上・下
        
羅漢供養講式稿本断簡
        
韶州曹溪山六祖師壇経
        
支那禅刹図式(寺伝五山十刹図)        
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展覧会案内(年間スケジュールへ)   [前半4月〜9月]  [後半10月〜翌年3月]