昨年当館で開催された「俵屋宗達と琳派」展は、尾形光琳の没後300年の節目となる2016年に向けた、新たな琳派ブームの先駆けとなったようです。琳派の魅力は親しみやすい造形美にあるといえますが、「俵屋宗達と琳派」展で明らかにしたように、その根底には平安時代以来の「知のあそび」の伝統が生きています。
世阿弥は『風姿花伝』で、「見る人のため花ぞとも知らでこそ、為手の花にはなるべけれ」と述べています。これは、ここが見せ所だということを鑑賞者に知られないようにすることが、演技者の要諦だとする「秘すれば花」の精神と解釈することができるでしょう。能楽と深く関わりがあった宗達や光琳の作品が示す親しみやすさにも、確かにこの精神は生きています。そこで作者がどのような趣向を仕掛けているのかをじっくり読み解く鑑賞方法も、琳派への知的なアプローチとして今後さらに注目されることでしょう。
今回は、宗達工房が制作した色紙に、本阿弥光悦が『古今和歌集』の歌を揮毫したものを36枚屏風に貼り交ぜた「光悦色紙貼交秋草図」、宗達晩年の名作「槇檜図」、宗達の後継者俵屋宗雪が、加賀藩の発注により描いたと考えられる「群鶴図」、宗雪の後を継いだ喜多川相説が、当時の先端的な学問だった博物学的な観点で描いた「秋草図」、そして相説から宗達以来の表現を受け継いだ、尾形光琳のデザインによる「蒔絵螺鈿野々宮図硯箱」と「蒔絵螺鈿白楽天図硯箱」、以上石川県指定文化財ほか2点を展示します。