本年は、本阿弥光悦が鷹峯の地に移ってから400年の節目となることから、「琳派400年」として、京都を中心に様々なイベントが開催されます。そこで、石川県立美術館でも2回にわたり琳派の特集を組むことにしました。最初の特集では、まず本阿弥光悦にスポットを当てたいと思います。
光悦は熱心な法華宗の信徒でした。法華宗の根本経典である『法華経』「方便品第二」には、子供が戯れに木片などで仏の像を描いたとしても、その人は慈悲ある人となり、幾千万の人々を救済すると説かれています。光悦ら琳派の芸術家たちが制作にあたった原点はこの教えにあるといえます。すなわち、子供の戯れの行為にこれほどの功徳があるならば、大人が真剣に制作にあたれば、その功徳は計り知れないのではないか。この信仰が、今日の人々も魅了してやまない洗練されたデザイン感覚に満ちた琳派様式を生み出したというわけです。今回展示する光悦の「薄木版下絵詩歌」(石川県指定文化財)には、『和漢朗詠集』の詩歌が書かれています。詩歌は仏を讃美する機縁でもあり、それを美しく書くこと、そのために意匠と装飾をつくした料紙を用いること。作品をじっくり鑑賞すると、こうした光悦の信仰が伝わってきます。さらに今回は、光悦一族の本業に関わる「刀絵図」(本阿弥光徳筆・重要美術品)も展示します。従来とひと味違う琳派の世界をどうぞご期待ください。