大正15年（1926）に十六代前田利為侯は、江戸時代に収集された加賀藩前田家のコレクションを維持管理するための（公益法人）育徳財団を設立し、その後、図書館や美術館の開設を目指して、さらなる作品の収集を進めています。昭和２年（1927）から同５年にかけて駐英大使館附武官として渡欧しましたが、その際に各界各層の友人・知人に依頼して熱心に収集したもののなかに著名人の自筆、いわゆるオートグラフがあります。第１回は同３年４月にナポレオン・ネルソン・ピョートル大帝・ウェリントン、第２回は同年11月にリンカーン・エドワード・ナポレオンの筆跡をそれぞれ英国で入手しています。第３回は同４年２月にパリで、ヘンリー八世・モンロー大統領の２点を収集し、以後帰朝時まで、元首・統治者等35名、軍人61名、政治家25名、著作者ならびに詩人30名、学者・探検家・発明家等17名、作曲家・音楽家等24名、芸術家・俳優・声優等17名、その他３名の総数212点を収集しています。
　その収集されたオートグラフは、厚紙の台紙に額縁状に切り抜いた台紙を貼りあわせ、１点１点を貼りつけて納め、その台紙を革製の表紙をもつ大型の冊子に製本し、整理保管されています。こうした点に五代藩主綱紀の事績を手本とする利為侯の姿が認められます。今回は作曲家と芸術家のうち、６名分を前期後期に分けて展示しています。