書の鑑賞といえば、何が書いてあるかわかるところからはじまると思いがちです。その時点で、「書はわからない」というイメージを抱いてしまう方も多いのではないでしょうか。絵画や彫刻などの鑑賞では、その制作意図や主題がわからなくても自然にその造形や描写が鑑賞されていますが、このような感覚での「作品をみる」という鑑賞の基本が、書ではこの「読めない」というウィークポイントによって妨げになっているように思われます。そこで、書の作品を読むことに固執せず、作品が「わかる」ではなく、 見ることを楽しむ ような鑑賞方法をご紹介します。
書は文字の形や線、全体の構成など視覚芸術としての多くの魅力を持っています。まず、好きと思える作品を見つけ、絵画を見る時と同じようにこの形がいいとか、バランスがいいといった調和のとれた構成の美しさを自分なりに見つけてみましょう。次に、書独自の要素である筆線を追って見てみます。展示室ならば手のひらに指先でなぞることで、筆の流れ、リズム、筆触、線質など書き手の意識に思いを馳せ、作者の制作体験を追体験できることでしょう。その中で自分がなぜその作品がいいと思ったのか、その作品の良さを「見つける」ことや「気づく」ことを目指して作品と対話してみてはいかがでしょうか。
今回の「墨の美」の展示では、今まで書の作品には関心のなかった方にも、このような書の作品との対話で、作品が語りかけてくれる書の美の特性に眼を向けてみるきっかけになることを願っています。