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学芸員コラムColumn

2020年1月22日その他【美術館小史・余話23】旧館開館十周年の時を迎えて(一)

旧石川県美術館 (現石川県立伝統産業工芸館)

※本コラムは平成12年から平成16年にかけて、当館前館長・嶋崎丞が「石川県立美術館だより」において連載したものの再録です。

 旧石川県美術館は、昭和34年に開館しているので、昭和44年は開館10周年の歳に当たった。どこの美術館や博物館でも、開館10周年ということになると節目の歳なので、必ず記念的な展観や行事が実施されるのが通例である。当館でも昭和42年に入ってから、どのような展観を開催すべきか検討されはじめたが、折しも読売新聞社から、フランスの画家ロートレックの展示を開催しないかという申し入れを受けた。日本での開催は確か3ヶ所。東京と京都はそれぞれの国立近代美術館で、そして地方では当館1館のみということである。しかしこのロートレック展の開催は、昭和43年度の実施事業であって、当館の10周年事業に当てるにはいささか無理があった。そこで最後の会場を引き受ければ、年度は1年先でも、開催する年月は昭和44年3月であり、開館10周年といえないこともないという、今考えてみれば実に乱暴な理屈をつけて開催を引き受けることにした。
 ところが、日本での最初の会場である京都国立近代美術館で、開催期間中「マルセルの肖像」という作品が盗難に遭う事件が発生した。当館での開催も無理して決定した手前もあり、きっと厳重な管理体制が要求されるであろうから中止すべきだとの意見もあったが、当館としては初めての海外からの展観だということで、予定通り実施に踏み切った。展示室での監視体制は、初めて今でいうガードマンを入れ、夜は近くの交番から警察官の見回りをお願いし、どうにか展観は無事終了したのである。盗難事件が話題を巻き起こしたことなども手伝って、北陸では3月という悪い時期での開催にもかかわらず、約4万人もの入場者を記録し盛会であった。

  (嶋崎丞当館館長、「石川県立美術館だより」第224号、平成14年6月1日発行)

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