学芸員コラムColumn
2017年1月29日展覧会#023 摺師のおしごと
浮世絵の作り方は、主に2種類あります。ひとつは版画、もうひとつは手描き、すなわち肉筆浮世絵。
版画ならば同じ絵をたくさん提供できるため、浮世絵1枚1枚の価格がおさえられ、庶民にも求めやすくなりました。
とはいえ、1670年ごろに登場した初期の浮世絵版画は墨一色。色をつけるためには、筆に絵の具をつけて塗ってやる必要がありました。企画展「絵画にみる江戸のくらし」に登場するような、さまざまな色彩を持つ版画、すなわち錦絵が登場したのは、1760年代以降のことです。最初に浮世絵版画が登場してから、実に100年近く経過していました。
さあここからは、1/21、22日に石川県立美術館で開催されたワークショップの内容を振り返りながら、摺師のお仕事についてじっくりご覧いただきましょう。
【摺りが始まるまで】
・版元(出版社)から、絵師に注文が来る
・絵師が注文に沿って絵を描く
・彫師が版木に絵を写しとり、彫る(輪郭線のみ)
・摺師が版木を受け取り、使う色の数の「主版」を摺る
・「主版」を絵師が確認。色ごとに指示書を描く
・指示書を見て、彫師は色の数だけ版木を彫る
【ここからが摺師の腕の見せ所!】
ワークショップではアダチ伝統木版画技術保存財団さんが実演してくださいました。
①版木を置き、糊を置いて絵の具をつける
②水を含ませた和紙を、「見当」にあわせて置く
③ばれんで摺る
(輪郭線からずれていないか確認)
この作業を繰り返します。全く同じ版画を作り続けなくてはなりませんから、色の濃さはどうか?ずれていないか?など確認を怠りません。
そして、「ぼかし」すなわちグラデーションは、摺師の絵の具の置き方、ばれんの押さえ方、それだけで完成しているのです!錦絵は絵師・彫師・摺師それぞれのセンスと技によって、出来映えが決まります。歌川広重の作品には彫師の名を画中に描いたものがありますが、絵師にとっても版元(出版社)にとっても、腕のいい職人はぜひとも手放したくない存在だったでしょう。
アダチ伝統木版画技術保存財団さんは、全国各地でこうした摺りの実演を行っていらっしゃいます。皆さまのお近くでも、再び目にできることがあるやもしれません。百聞は一見に如かず、ぜひ1度ご覧いただくことをおすすめします。(有賀 茜)