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学芸員コラムColumn

2016年10月6日展覧会#015 工芸作家の「鋭」な仕事

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工芸は、絵や文章のように、じかの思いをぶちまけて表現するものを鋭角とすれば、物を通しての表現であるから、直接ものをいうわけにいかない「鈍」な仕事なのだ。(志村ふくみ『一色一生』より)

  これは木工芸家の黒田辰秋が、織物を生涯の仕事にしたいと相談に来た、志村ふくみにかけた言葉です。決められた扱いが必要な素材(物)が介在する工芸は、作家自身の思いを込めるのが難しい。それゆえにこれと決めたら、とことんやりきる気持ちを持つこと。黒田の言葉を支えに創作の道に入った、紬織の人間国宝・志村は、随筆家としても知られており、大佛次郎賞を受賞した『一色一生』には、織物への強い思いや周囲の人々への感謝の気持ちなどを、端正な文章で表しています。
 紬縞織・絣織の人間国宝・宗廣力三の自伝的著作『郡上紬に生きる』は、郡上紬を産業として発展させるための血の滲むような努力や、新しい絣模様創案への情熱を、実直な文体で書き留めています。宗廣の織物作品を思い起こさせるような、淡々と綴る文章には、昨今のドキュメンタリー番組を凌ぐリアリティがあります。
 展覧会では各作家1~2点の出品です。図書館や書店で手に入る工芸作家の「鋭角」な仕事と併せてご覧いただくと、作品や作家の新たな魅力が発見できるのではないでしょうか。(文中敬称略。寺川和子)

 

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